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利回り6%・劣後10%・LTV35.8%——数字の三拍子は整うが、その足元は「新築未完成・売却価格非開示・鑑定なし」という砂上の楼閣。売却価格が6.4%下振れすれば劣後バッファは消失する。契約締結済みの看板だけでは、出口の扉が開く保証にならない。
ポイント
売買契約締結済みでも買主・売却価格は闇の中
事業者は「買い手との売買契約を締結済み」と強調するが、契約成立前書面には買主の属性も売却予定価格も一切記載がない。竣工後引渡しで決済完了という説明だけでは、売却益がいくら出るのか、そもそも決済が確実に履行されるのかを投資家が検証する術がない。「契約済み」という安心ワードだけが先行し、裏付けデータが欠落している点は透明性の観点で減点材料だ。
鑑定評価なし・NOI費用欠損で収益構造が検証不能
物件取得価格1億2,570万円に対し、不動産鑑定士による鑑定評価は「無」。価格算定方法は「近傍の類似物件の取引実例に基づいた評価額」とあるが、具体的な比較対象や算式は開示されていない。さらに管理費・火災保険料・固都税といった運営費用が書面に記載されておらず、実額ベースのNOIは算出不能。賃料収入1,077万円から費用を推計控除した参考キャップレートは6.0〜6.9%程度だが、これはあくまで概算であり、配当原資の裏付けとしては心許ない。
LTV35.8%は低水準だが、開発型ゆえの竣工リスクが上乗せ
借入金4,500万円÷事業総額1億2,570万円=LTV35.8%は、不動産クラファンとしては低めの水準。ただし本ファンドは「開発型」であり、建物は2027年3月竣工予定。資材高騰・工期遅延・施工不良といった竣工リスクが存在する。竣工しなければ売却も賃貸もできず、劣後出資10%では吸収しきれない損失が発生する可能性がある。事業者は「建築確認許可取得済み」「資材確保状況を別途開示」と説明するが、投資家が直接確認できる情報は限定的だ。
事業者TSONは211件償還・元本割れゼロだが自己資本比率9.1%
株式会社TSONは累計299ファンド・211件償還・元本割れゼロという実績を持つ。2025年度は売上51億円・純利益9,195万円と黒字転換しており、赤字体質からは脱却した。一方で自己資本比率は9.1%と低水準。総資産61.8億円に対し純資産5.6億円という財務構造は、不動産クラファン事業者として許容範囲内ではあるものの、劣後出資を自己資金で賄う余力には限界がある。第1号事業(匿名組合型)のため倒産隔離はなく、事業者破綻時には投資家の出資金が保全されない点は認識しておくべきだ。
マスターリース先「アップル東京」は予定段階
賃貸借契約の相手方は「株式会社アップル東京(予定)」と記載されており、建物着工後に契約締結予定とある。年間賃料1,077万円・契約期間2年・自動更新という条件だが、契約が確定していない以上、賃料収入の確実性は担保されていない。もっとも本ファンドは売却益(キャピタルゲイン)を配当原資とするため、賃料収入は副次的な位置づけ。売却が予定どおり進めば賃料の重要性は低いが、売却が遅延した場合には賃料収入が運用期間中の配当原資となる。
物件概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都小平市上水本町1丁目 |
| 物件種別 | 共同住宅(1棟6戸・メゾネット型) |
| 構造 | 木造3階建て(2×4構造) |
| 築年月 | 2027年3月予定(新築) |
| 延床面積 | 428.53㎡ |
| テナント | 株式会社アップル東京(予定) |
| 稼働率 | 建物竣工前のため記載なし |
収益構造とNOI分析
本ファンドは「開発型(融資有)匿名組合ファンド」であり、配当原資はキャピタルゲイン(売却益)を想定している。インカムゲイン(賃料収入)は副次的な位置づけだ。
- NOI(実額): 書面に運営費用(管理費・火災保険料・固都税)の記載がなく算出できません。
- (推計・参考値)想定NOI: 7,543,200〜8,620,800円/年/想定キャップレート: 6.0〜6.9%
- 運営費用の一部が書面から取得できないため、賃料収入の20〜30%を運営費用の目安として控除し、利回りをレンジで推計した参考値です。本ファンド固有の一次資料に基づく確定値ではありません。
- 配当原資: キャピタルゲイン型
収益構造の整理
| 項目 | 金額・内容 |
|---|---|
| 物件取得価格 | 125,700,000円 |
| 借入金 | 45,000,000円(LTV35.8%) |
| 出資総額 | 80,700,000円 |
| 優先出資 | 72,600,000円 |
| 劣後出資 | 8,100,000円(劣後比率10.0%) |
| 年間賃料収入 | 10,776,000円(予定) |
| 予定利回り | 6.0%(税引前) |
| 運用期間 | 8ヶ月(2026年9月〜2027年5月) |
売却価格が非開示のため、キャピタルゲインの具体的な金額は不明。事業者は「売買契約締結済み」と説明するが、売却価格が取得価格を上回る保証はない。
市場価格検証
| 比較項目 | ファンド物件 | 近隣取引中央値 | 乖離率 |
|---|---|---|---|
| 土地㎡単価 | 約571,000円(推計) | 425,000円 | +34% |
| 取引価格 | 125,700,000円 | 48,098,869円 | +161% |
分析
ファンドの物件取得価格1億2,570万円を土地面積220.08㎡で割ると、土地㎡単価は約57万円となる。ただしこれは建物込みの価格であり、純粋な土地単価ではない。近隣の土地取引事例(2024年)では㎡単価22〜38万円程度が中心であり、建物価値を加味しても取得価格はやや高めに見える。
もっとも本物件は新築木造3階建て・延床428㎡のメゾネット型賃貸住宅であり、近隣の戸建住宅や中古マンションとは単純比較できない。事業者が「近傍の類似物件の取引実例に基づいた評価額」と説明する以上、具体的な比較対象の開示がなければ価格の妥当性は検証困難だ。
土地評価と出口シナリオ
土地評価(推計)
小平市上水本町周辺の公示地価は2026年時点で3.16%上昇、2013年比で18.2%上昇と事業者は説明する。仮に土地㎡単価を35万円(近隣取引の上位水準)と仮定すると、土地220㎡×35万円=約7,700万円が土地持分相当額の概算となる。残り約5,000万円が建物価値に相当するが、新築木造の建築コストとしては妥当な水準だ。
出口シナリオ
| シナリオ | 売却価格(推計) | 投資家への影響 |
|---|---|---|
| 楽観 | 1.4億円以上 | 元本全額償還+キャピタル配当6%達成 |
| 基本 | 1.3億円程度 | 元本全額償還・配当は縮小の可能性 |
| 悲観 | 1.2億円以下 | 劣後出資810万円で吸収可能か要検討 |
売買契約締結済みとはいえ、売却価格が非開示のため出口シナリオは推計に留まる。竣工遅延や買主の契約解除が発生した場合、売却価格の下振れリスクが顕在化する。
ストレステスト
| 変動要因 | 変動幅 | 物件価値への影響 | 劣後バッファとの関係 |
|---|---|---|---|
| 売却価格▲10% | 1.26億円→1.13億円 | ▲1,257万円 | 劣後810万円を超過 |
| 売却価格▲6.4% | 1.26億円→1.18億円 | ▲810万円 | 劣後バッファ枯渇ライン |
| 竣工遅延6ヶ月 | 運用期間延長 | 金利負担増・配当減少 | 元本毀損リスク上昇 |
総評
劣後出資810万円÷物件取得価格1億2,570万円=約6.4%が、劣後バッファが枯渇する物件価格の下落率となる。売却価格が取得価格から6.4%以上下落すると、優先出資者の元本が毀損し始める。新築物件で売買契約締結済みという条件下では6.4%の下落は起こりにくいが、竣工遅延や買主の契約解除が発生した場合には想定外の損失が発生する可能性がある。
契約上の注意点
- 第1号事業(匿名組合型)のため倒産隔離なし: 事業者破綻時には投資家の出資金が保全されない。
- 契約期間延長条項あり: 売却が完了しない場合、6ヶ月を超えない範囲で契約期間を延長可能。
- 中途解約は「やむを得ない事由」に限定: 流動性は極めて低い。
- マスターリース契約は未締結: 賃貸借契約の相手方は「予定」段階であり、確定していない。
- 自己取引(利害関係人取引): 事業者TSONが自己保有物件を匿名組合勘定に移管する形式。取得価格の妥当性を第三者が検証する仕組みがない。
結論
売買契約締結済み・LTV35.8%・劣後比率10.0%という数字は一見堅実だが、鑑定評価なし・NOI費用欠損・売却価格非開示という情報開示の薄さが足を引っ張る。開発型ファンド特有の竣工リスクを許容できる余剰資金での短期投資向け。
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